私たちは,コンピュータサイエンスの知恵を駆使して,インターネットという巨大な社会基盤をより効率よく,より安全に動かすための研究に取り組んでいます.数理的なアプローチやシミュレーションを通じて,現実社会に潜む複雑な課題を論理的に解き明かし,実際のシステム設計や運用に役立つ形へとつなげていくのが私たちのスタイルです.学問としての探求と社会への貢献を両立させながら,将来のネットワークを支える基盤技術を育てています.

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データセンタ・ネットワーク:最先端のAIを支える計算基盤

datacenter

現代の巨大なAIモデルを育てるには,数万枚のGPUを連携させる「インターコネクト」という特別なネットワークが欠かせません.現在の課題は,GPU同士の通信でわずかな渋滞が起きるだけで全体の学習効率が大きく落ちてしまうことです.井上研究室では,光のスイッチでネットワークの形を計算内容に合わせて自由に変える「可変ネットワーク」という画期的な仕組みに挑戦しています.数理モデルに基づく設計とコンピュータシミュレーションを武器に,AI学習を圧倒的に速く,かつ低電力で実現するネットワークを目指します.さらに,この取り組みを通じて,最新のネットワーク技術と,数学的なアイデアを設計や実装に落とし込む考え方を,社会の中で使える形に磨いていきます.


通信インフラの防災:災害時でも「つながる」安心を設計する

disaster

地震や豪雨などの災害が起きたとき,救助や連絡の「命綱」となるのがインターネットです.私たちは,大手通信事業者や土木分野の研究者と協力し,地下管路や電柱などの通信設備のダメージをAIで予測するとともに,天文学的な数の故障パターンから「ネットワークが正しくつながるか」を厳密に計算する独自の技術を開発しています.目指しているのは,単に壊れないだけでなく,たとえ一部が壊れても即座に代わりのルートを見つけて復旧する「強靱(レジリエンス)」な社会インフラの実現です.こうした研究は,災害に備えた設備投資や復旧計画の検討を,データと論理に基づいて支えるための基盤になります.


運用・セキュリティ:複雑なネットワークを,賢く・安全に管理する

operation

インターネットの裏側では,膨大な数の通信機器が複雑に組み合わさって動いています.たった一行の設定ミスが大規模な通信障害を招くこともあるため,私たちはネットワークの構成を仮想空間に再現する「デジタルツイン」技術や,設定の誤りをコンピュータで自動的に検証する仕組みを研究しています.成果の一部は,山梨大学の情報処理教室において,試験中のみ生成AIなど特定サイトへのアクセスを制限する「試験モード」として実際に導入・運用されており,教育現場の公平性を守るためにも役立てられています.これらの研究を通じて,複雑なシステムを論理的に捉え,安全性や運用の確かさを高めるための「一歩先のセキュリティ・エンジニアリング」を形にしていきます.


Graphillion:ネットワークの膨大なパターンを自在に操る

graphillion

井上研究室の大きな武器の一つが,10年以上にわたって開発・公開を続けているオープンソース・ソフトウェア「Graphillion」です.通信インフラのような複雑なネットワークを分析する際,故障や経路の組み合わせは天文学的な数に膨れ上がり,通常の計算手法では太刀打ちできません.私たちは,巨大なデータを効率よく圧縮して処理する「決定グラフ」というアルゴリズムを駆使し,複雑なパズルのようなネットワークの問題を瞬時に解き明かす仕組みを提供しています.Graphillion は https://graphillion.org で公開されており,世界中の誰もがダウンロードしてすぐに利用できます.研究と実装を往復しながら,ネットワークを正確に分析するためのアルゴリズム基盤を育て,現実の課題に適用できる形で提供していきます.